第1章

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「直哉、俺と御形は平気なのか?」  あんなにベタベタした事は無いが、俺と御形は恋人同士の筈だ。 「精神的には、気持ち悪くはないけど、許してはいないから平常心は保てないかな」  許しては無かったのか。今後気をつけよう。 でも、俺も、何だか吐きそうだった。 「庭で吐くか?」  トイレに駆け込んでもいいが、心配されるのは嫌だった。 「そうだな」  夜の庭には、あちこちにソーラーの電気が設置されていた。御形家、ライトアップがとても好きなのだ。  庭の石で、胡坐をかいて座ると、思ったよりも寒かった。  何が受け付けないのか分析してみると、相手を思う気持ちが、彼らには無い。自分のことばかりだった。百歩譲って、失う事が怖いというのが思う気持ちだとして、相手に伝えるものが無い。 「人間は難しいな…」 「本当だ」  吐き気が納まってきたが、どうも、背中がムズムズしていた。 「典史、翼が出ている」 「これ、どうにかしてくれ。どうして、最近、コントロールがきかない?」  池に映る、自分の姿に愕然とする。全開で、翼が出ていた。 「見たいと強く思う人が居るからだよ。天使は人の思いに共鳴するから」  翼、封印するか。これでは、不便過ぎる。 「封印しても、出てくるよ、多分。時間とか場所を決めて、翼を出すようにしたらどうだ。その時間や、その場所に来れば、翼が見られると思えば、相手が我慢するようになる」  この家では、翼が大好きは一穂だ。 「分かった」  どこで出すかは、自分の部屋しかないが、一穂を、部屋に年中入れるわけにはいかない。 「風呂にするか」  御形の風呂は広い、翼を出すスペースもある。 「翼もマメに洗えるし。それもいいかもな」  言霊は先方にうまく伝わったらしく、兄弟はその夜、長く話し合っていたようだ。  次の日、朝食を食べていると、御形の母親が何か電話で驚いていた。 「鈴森 信吾ちゃん、見つかった死体だったそうよ。昨日、本人から警察に電話があったのだって」  何だか話が変だが、内容は分かった。現在、鈴森 信吾として生活していた誰かが、自分は鈴森 信吾ではないと告白したということだろう。
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