第1章

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 御形の情報によると、鈴森 信吾と名乗っていた者は、川に落ちた小学生だった。その少年は、両親が離婚協議中で、とても辛かった。鈴森 信吾を必死で探す、鈴森の両親を見て、羨ましいと言ったのがきっかけで、入れ替わりの計画を立てたのだそうだ。  兄が帰って来ない悲しみで、食事もできないうえに、全く言葉も出なくなった弟が、唯一気を許した少年だった。帰りたくないという本人の意志もあり、もう少し一緒でいいと、安易に思っているうちに時間が経過した。  その後も、本人が見つかれば、帰る予定だったのだが、見つからず、そのまま入れ替わったまま生活してしまっていた。  川に落ちた少年は、捜索願いが出されたままで、行方不明となっていた。見つかってしまうかもしれない、いや、誰も探していないだろう、日々に不安があったようだ。  いつかは終わる、家族の全員が、分かっていたことだった。 「どうなるのかね」  学校に向かう電車の中で、御形に問い掛けてみた。 「どうにもならないけど、今度は自分の意思で、鈴森の養子になりたいと申し出たらしいよ」  御形、そんなところまで知っていたのか。あなどれない情報網だった。 「なあ、御形。俺、今度の連休と春休みは、実家に帰るよ」  ええと、御形が不満の声を漏らした。 「少しは、成仏のさせ方を覚えたい気分になった。真里谷と俺の力は相殺関係だから、真里谷も実家に誘うつもりだけど、御形もどうだ?」  俺の実家は、居心地は悪いが、修業は出来る。  御形が、じっと俺の顔を見た。電車にカーブがやってくる、つり革に力が入る。基本、通学で座席に座るということはない。 「あんまり楽しい所では無いけどさ…」  でも、俺が居る。  俺の実家の部屋は、結構広いので、数人泊まっていても問題は無い。しかし、食事は自炊かもしれない。 「…いいの?」  御形家のような安らぎも、快適も無いけどいいのだろうか。 「誘っているのは俺だけど。居心地は悪いよ」  実家には、修行者が沢山居るのだ。 「分かった、俺も行くよ」  御形と真里谷が行くとなると、直哉も行くと言いだすだろう。直哉はサッカー三昧だが、御形家から学校に通うのも、黒井の実家から学校に通うのも距離は変わらない。 「直哉も行くってさ」  早速、御形が携帯電話で確認していた。  真里谷が、俺達の家庭教師も兼ねているので、一緒に行くと言う直哉の言い分は分かる。
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