第1章

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「一穂、後で翼枕してやるから」  また甘やかしてと、直哉に詰られる。結果的に、俺は一穂には甘い。 「直哉、彼女とうまくいっているか?」  サッカー三昧で、彼女と会う時間は少ないだろう。 「どうにかね」  土日には、時間を合わせて会っているのだそうだ。 「俺も、又、彼女作ろうかな」  直哉が、俺の幸せを願ってくれている気持ちが、やっと伝わってきた。直哉が慌てて俺の口を、手で塞いだ。 「御形が来る」  直哉は、透視で御形の姿を捕えたらしい。 「彼女もいいけどね、典史は、自分に掛けられている結界をどうにかしないとね。光に愛されているのはいいけど、光、どうやって典史を再び自分の光にするか、画策しているからね」  渡すつもりはないと、直哉が呟く。その瞬間だけ、直哉が天界人に戻っていた。  空き地は整地され、分譲され始めた、子供が集い遊んだ場所は、既に無い。  あんなに小さな区画の茂みが、子供には無限の原であった。公園を作ろうが、遊園地を作ろうが、ただの空き地に負けることがある。 第五話 夢の中の夢  夢を見ていた。小学生の御形が、友達と遊んでいた。最近、御形が小学生の時の話を聞いたので、夢に出てしまったのか。  手作りの野球場で、キャッチボールをする。皆、近所の見慣れた仲間だった。一緒に自転車でやってきた相手の横顔を見る。すごく懐かしい、でも誰だ?  泣きたいくらいに懐かしい、でも、誰なのか分からない。  そこで目が覚めた。隣を見ると、直哉もそこで目が覚めたらしい。 「透視してしまったか…」  昨日、直哉と、サッカーのテレビ観戦で盛り上がり、そのまま二人で眠ってしまったらしい。直哉の透視が、御形の夢を覗いてしまった。一緒に雑魚寝していた俺にも、その夢が伝染してしまった。  気が付くと、涙が出ていた。夢の中でも会えた事が、すごく嬉しかったのだ。 「でも、誰なんだ?」  俺達が知らないのは問題ないが、夢の中で俺達は御形になっていたのだ。御形も、相手が誰なのか分かっていなかった。 「想像というよりは、過去にあった記憶のような感じだったよな」  身支度をして台所に向かうと、寝起きの悪そうな御形が先に座っていた。夢を覗いてしまったとは言いにくいが、思い出せないという状況がもどかしい。 「なあ、御形」  目の下に隈があった。夢のせいで、よく眠れなかったのかもしれない。続きの質問が言えない。
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