第1章

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 ケンカならば、多分、御形よりも強い。しかも、本当に困ったら、翼を出して飛んで逃げる事も可能だ。多分俺は、心配は無用の存在だと思う。 「あのな、御形…」  文句の前に、森に連れ込まれてしまった。 「この丘、電車から見える」 「それは、チェック済」  丘を越えれば良いのだ。それで、電車からは見えなくなる。  「黒井、襲いたくなる気持ちが分かる…よ」  鞄を木に掛けると、御形に抱き込まれていた。もう、最初から御形の舌が入ってくる。 「森って、外なのに、密室のようだ」  慌てて口を閉じようとしたが、既に遅く、割って入った御形の舌に翻弄されていた。  どこが密室なのだ、鳥の声はするし、電車が来る度に心なしか地面が揺れる。人の声も聞こえてきて、心臓がバクバクする。 「御形…」  この御形、多分?俺の恋人なのだ。俺は、最近自覚して、彼女とも別れた。まだ、最後までやったことはないが、既に八割方、体も心も御形のモノかと思う。  でも、仕事となると話は別だ。 「ストップ御形」  先ほど撒いてしまった水が、稼働してしまった。  外されていた、ベルトをはめ直すと、丘の上に登った。  ここは昔、駅前だったのだ。何かの理由で、駅の位置が移動した。暫くしてその理由は、分かった。過去の映像が見えた、空襲だった。燃えている駅の映像が、見えていた。  又、会おうと誓った。若い学生が、固い握手を交わす。満開の桜だった。  ここで、又、電車が来てしまった。 「…、夜に出直す」  電車の通らない夜に、ここに又来る。 「桜、満開だな」  俺と違って、御形、霊だけは見える。 「あ、見えているの」  御形、他は何もできないが、霊だけは見える。でも、御形、今まで人間の霊しか見えていなかった筈、今満開の桜と言った。桜にも幽霊があるのだろうか。 「桜の幽霊ってあるのか?」 「俺も初めて見たよ…巨木で、満開の桜」  帰るかと歩きだすと、御形も歩きだす。同棲している訳ではないが、俺は、御形の家に住んでいる。俺の従兄の雑賀 直哉(さいか なおや)も、最近まで敵対していた真里谷 愛斗(まりや あいと)も、御形家に同居しているので、御形家は、まるで問題児の下宿屋のようになってしまった。  一緒に電車に乗り込むと、御形は女の子にキャーキャーと騒がれていた。俺は、目立つのは嫌なので、そっと、御形の隣を離れる。 「なあ、黒井…あれ、どこに居る?」
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