第1章

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 次の日も、同じ夢の続きを見ていた。夢を透視してしまった直哉が、俺に見せる為に、ベッドを移動して来たのだそうだ。  今度は、仲間と、放課後に野球の約束をしていた。御形は、その前に寄るところがあると、神社の横のおばあさんの家に行っていた。  そこで買い物袋を渡し、又自転車で走り出した。渡したのは何かの薬で、足腰の弱ったおばあさんの代わりに、薬局に取りに行ったものだった。おばあさんは、御形の寺によく来る人で、御形の祖母というわけではない。御形はこの頃から、無意識に優しかったのかもしれない。  又、いつもの野球場。キャッチボールを始めると、仲間がやって来る。名前は全て知っている、けど、今、キャッチボールをしている相手が誰なのか分からない。少年は、隣の奴と楽しそうに喋っていた。少年は、目深に野球帽を被っている、顔が良く見えないが、懐かしい気持ちは募る。  同じ年頃、同じ背丈、同じ学校から来ていた。鞄に名前が在る筈、名前、藤木とある。藤木、藤木、名前からも何も思い出せない。 「北村、藤木ってどこのクラス?」 「どこだっけ?」  北村も、藤木の事を思い出せない。飯島を呼ぶが、同じく、どこかのクラスに居たと思うけどと、それ以上の記憶がない。 「御形、中学では野球部に入るの?」  藤木が話しかけてくる、御形は中学ではテニス部だったと聞いている。 「野球部には入らないと思う。野球は好きだけど、家が山の上だろ、学校から距離がありすぎて、朝練があると間に合いそうにもない」  間近で、藤木の顔が見えた。  切れ長の目に、日に焼けた肌。りりしい引き締まった顔立ちだが、いたずら好きそうな目をしていた。どこかで見慣れた顔が、そこにあった。 「俺だ!俺が小学生の時の、俺の顔?」  ベッドで飛び起きる。俺は、藤木ではなく黒井 典史。その頃は、バスケ三昧だし、他県の小学校に通っていた。 「…本当だ…どういうことだ?」  御形は、俺の小学生の時の顔など知らないだろう。  今の顔からの想像もあるだろうが、全くの別人という言葉を多く貰うのだ。真っ黒に日焼けしていて、ガテン系の雰囲気、ケンカも多くてあちこち怪我だらけ。哀しい事に、今よりも、小学生の時の方が精悍で男らしい。 「どうなっている?」
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