第1章

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 御形は、何故、藤木を忘れてしまったのだろうか。  御形と、廊下ですれ違ったが、珍しく何のリアクションも無かった。こうして、ただ通り過ぎるだけだと、御形は、何だかすごく遠い人のように思える。  教室に帰ると、寝ている直哉を起こした。 「藤木、誰だかは分かった」  聞いてきた話を、直哉に話す。 「何か、藤木の物はないかな。千里眼で見ようか」  物は、何も無いだろうが、グランドは残っているのかもしれない。 「行ってみるか?」  直哉も、興味深々だった。この好奇心のせいで、あれこれ事件に巻き込まれるが、どうにも止められない。 「今日、部活、自主トレだよ。行くか」  直哉とつるんで遊ぶ?のは、久し振りだった。  直哉の千里眼は便利で、御形が薬を持って行った神社はすぐに見つけた。しかし、おばあさんが住んでいた家は無くなり、今は、小さな公園になっていた。  バイクは目立つので、駅から自転車で移動していた。御形が辿った道のまま、自転車を走らせ、グランドがあった場所まで辿り着いた。  坂の途中、切り落としたような山の斜面の、横を入ると、野球のグランドがある、はずだった。斜面までは辿り付いたのだが、その奥は工事現場で、土砂の採石場のようになっていた。  再度、直哉の千里眼で確かめてみたが、場所は合っているようだった。 「グランド、無いのか」  帰りも、夢で見た道を辿っていたが、おかしな事に気が付いた。この道で、どうやったら御形の家に帰るのだ。  御形の家に帰るのならば、山の反対側を抜ける道しかない。 「何だ?変だろ?」  直哉と、自転車を止めて考え込む。御形は、どこへ向かっていたのだろうか。 「家に、帰っていなかったのではないのか?」  ふと、横の道に入り、通り過ぎる車をやり過ごした。 「これ、かもよ」  途中の道で、見張っていたのだ。そこで、コーチと藤木の母の、現場を見たのではないか。  そして、深読みすると、そこで何らかの事件があったのだ。藤木を忘れたいと願う事実。実際、忘れる程のショック。 「本人に聞くか?」  忘れて良かったのならば、思い出さない方がいい。 「忘れたままでもいいよ…」  山の反対側に抜けるかと、又、自転車を走らせていると、小さな祠を見つけた。  ただ、通り過ぎようとしたが、声が聞こえていた。 「声、しなかった?」  民家も無い、細い山道だった。道中で、車は一台も見ていない。 「声…した」
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