第1章

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 俺達は、自分達が、霊が見えない、霊の声も聞こえないと知っているので、余計に気になる。生きている人間の声なのだろう。 「ギャー」  カラスにしては、人間の声に近い。赤ん坊にしては、声が低い。  道端に自転車を置き、祠に近づいてみると、干からびた肉片のようなものが、祠の前に落ちていた。 「カエル?」  ヒキガエルというよりも、引き裂かれたカエルだった。これは、間違いなくカラスの仕業だった。 「う、ギャー」  これは、若い男性の声だ。しかも、近い。祠の後ろを見ようとすると、奥から叫びながら走ってきた男性が居た。  すごい形相で走ってくる、訳が分からないが、こちらも怖くなり、道へと一緒に走り出していた。理由は分からないが、只事ではない雰囲気に、全力で走ってしまった。  道路に出ると、自転車に乗ったが、ふと冷静になった。 「何が起きた?」  直哉は千里眼で、祠の先を見ていた。 「ヘビみたいだ」  理由に、がっくりときた。疲れが、今になってやってくる。 「ごめん。脅かした?」  若い男は、自分の慌てぶりが可笑しかったらしく、思い出しては笑っていた。 「俺、昔、この近くに住んでいたのよ。それで、何だか懐かしくてね、歩いていたら、ヘビがいてさ」  又、笑い出していた。 「それに昔、俺、ここに二人殺して埋めたのよ。犯人は、現場に戻るってやつだな」  そこで、又、笑っていた。でも、飲もうとしていた水が、勝手に媒体になり、過去が見えた。ふらついた振りをして、直哉の腕を掴む。これで、直哉にも過去が見える。  シャベルで土を掘る音が聞こえていた。山の斜面が崩れていた、木の根がジャマをして中々掘れない。  その時、上の木が倒れてきた。ミシミシと音を立てて、他の木にもたれ掛かる。  危ないと言いながら、母が走ってきた。その後ろにコーチの姿があった。  もう野球なんてするものかと、グローブとバットを埋めるつもりだった。お前らのせいで、野球が嫌いになった、憎しみが溢れてきた。  でも何故、こんな所に母が居たのだろうか。倒れてきた木の下敷きになり、二人は動かなくなった。  このまま消えて欲しい。でも助けなければいけないのだろうか。携帯電話が圏外だった、電波を探しているうちに、雨が降ってきていた。
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