第1章

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 夢の中で、出てきた人物の顔を改竄できるのは、御形くらいなのかもしれない。でも、俺は、在り難くない人物に入れ替えられ、何となく気分は悪かった。  俺は、イライラしても、小動物を殺す趣味はない。 「帰ろう、直哉」  途中、懐かしい駄菓子屋を見つけ、あれこれ話しながら買い込んでしまった。コンビニにスナック菓子ならばあるが、綿菓子やらあんずやらがあったのだ。  でも、御形の母親に見つかると、体に悪いと取り上げられる。鞄の中に、ひっそりと隠した。  他にラムネが売っていて、その場で飲んだ。ラムネの瓶がきれいで、一穂にも見せたくなり、買い直すと自転車に乗せた。 「弟って、面白いな」 「年が近いと、面白いだけでは済まないけどな」  直哉には、年の近い弟が居た。毎日、ケンカばかりしていたが、どこか信頼もそこには在ったと思う。 「恭輔にいつか会えるかな」  恭輔と会えたら、沢山の事を話したい。 「会ったら、又、ケンカしたいよ」  兄弟というものは、よく分からない。  御形の家に帰ると、まだ、御形は帰っていなかった。一穂に、そっとラムネを渡すと、宝物にすると張り切っていた。中身を飲んでからにして欲しいが、もったいなくて飲めないらしい。  御形の母親に、野球のグローブとボールが在るかと聞くと、笑顔で物置から取ってきてくれた。  グローブは、どうにか手にはまった。しかし、よく在ったと思う。 「誰が、左利きだったのかな」  御形は右利きだったと思う。しかし、御形」の母親、俺が左利きだと気が付いていた。何も聞かずに、グローブが左利き用だった。 「するか、キャッチボール」  直哉と、キャッチボールを始めてしまった。バスケ三昧だったとしても、多少は野球もしていた。直哉も同じく、サッカー少年だったが、付き合い程度には野球もできる。 「そうか、典史、ボールは左利きのままか」  ペンも箸も右手にしたが、投げるのは左利きのままだ。箸も、気にしていないと左手で使っている。  肩が慣れてくると、少し距離を広げキャッチボールをする。離れた分だけ、会話の声が大きくなる。 「俺、ピッチャーもやっていたぞ」  パシン、パシンといい音が響く。 「典史…らしいよ。俺、外野がベストだな。走って取るといのが好きというか。でも、よくキャッチャーもした」  よしと、ピッチャーとキャッチャーになり、本気で投げだしてしまった。
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