第1章

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「なかなか、いい球…手が痺れる」  直哉の、キャッチャーも様になっていた。 「結構、二人とも上手いな」  御形が、帰って来たらしく、制服のままキャッチボールを見ていた。 「俺にも投げさせて」  御形の投げるフォームは、教科書のようでとても綺麗だった。正確で、真面目な野球だった。 「かっこいい、御形」  右利きのグローブは一つしかなかったので、直哉が御形と代わっていた。 「この左利き用は、誰の?」 「それか、供養の品じゃないかな」  供養の品を、使ってもいいのか?御形の蔵には、曰くつきの品々が確かに沢山在った。 「黒井、左利きだったのだな…」  ボールを投げなければ、分からないのだから、右利きでいい。 「藤木も左利きだったよ」  左利きは、野球しか得をしないから、野球が好き。藤木は、そう、御形に言っていた。でも、その野球のせいで、母がコーチに恋をした。  藤木は、今は祖父母と、父の元で暮らしていたらしい。藤木は、自分が、誰も殺していないと分かっても、ずっと黙ったままだったが、最後に良かったと呟いたそうだ。 「で、俺の夢の中に入ったのは、直哉だよね」  偶然を主張したが、テレビを見ていて一緒に眠っていた等も、皆、喋るはめになった。  ものすごく懐かしかった、そう告げると、御形が笑っていた。 「野球がね、懐かしかった」  人ではなくて、野球が懐かしかったのだそうだ。  御形は、野球を続けるつもりは無かったのだそうだが、野球が好きだった。野球を辞めてから、御形は、野球を見ることも止めてしまったらしい。 「黒井は、やんちゃな、クソガキだったと、志島と宗像が言う。その頃の黒井も見たかった。一緒に野球したかった」  志島にクソガキと呼ばれるなんて、心外だ。そもそも同じ年だし、何かするとなると、志島も一緒にやっていた。 「夢から覚めても、黒井と野球したことが嬉しくてしょうがなかった」  直哉が、横で苦笑いしていた。 「俺、部屋に戻る」  邪魔はしないよと、直哉が付け足す。 「野球の試合、一緒に観戦するか?」 「それもいいけど…」  一緒にテレビを見て、笑ったりもしようと言う。そんな事は、いつでも出来そうだが、確かに御形としたことはない。  会話の中を、ボールが行き交う。 「分かった、今から、テレビだ」
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