第1章

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 でも、とりとめのない会話をしながら、参考書を片手に、勉強してしまった。テレビを見る習慣というのが、俺には無かったのかもしれない。  でも、これでもいい、そんな感じがしていた。  しかし、又、夢の続きがやってきた。困った直哉が、俺を巻き込む。  今の藤木が、夢の中に居た。藤木は、駆け落ちした、母とコーチが、街中を二人で歩くのを見ていた。  もう許そうと、何度も、呟いている。けれど、そこに、小さな子供を見つける。藤木の弟と妹なのだろう。  何も知らずに、ただ幸せそうな小さな子供。許す、許す、藤木が心の中で、激しく繰り返す。  でも、あんな奴ら、全て燃えてしまえ。これも偽らない心であった。 『これ、藤木の夢だよね』  夢の中で、直哉の存在を探した。 『そう、みたいだ』  藤木が、土砂降りの雨の中を、傘もささずに歩いていた。遠くで、雷が鳴っていた。周囲は暗く、人通りもない。  どうしょうもない孤独。すごく寂しい。世界中で、自分だけが、一人のような気分だった。そこで、猫を拾っている女の子を見つけた。  水たまりに溺れそうな子猫、雷が光ると、その子の顔が見えた。  誰なのか思い出せないが、やはり、すごく懐かしい。この子を守りたい。心が一杯になる程の、愛おしさがこみ上げる。  そこで、目が覚めた。 「直哉、又、巻き込んだな…」  直哉が笑って誤魔化す。 「まあ、藤木君にも幸せの予感があったし、良かった」  そういう問題ではないだろう。直哉は、朝練があるからと、急ぎ身支度をすると、朝食を持たされて飛び出して行った。  御形と、家からの出発時間は異なるが、駅でばったり会うと、藤木の話をとりとめもなくしていた。  夢が透視なのか、千里眼になるのかは分からないが、無断で人の頭の中を見るのは良くないだろう。  俺の過去視も、考えてみるとプライバシーの侵害かもしれない。 「黒井、やっぱり、プロ野球を球場で観ようかと思う」  一穂が、行った事がないのだそうだ。やはり、子連れ?のデートの誘いだった。  でも俺には弟が居ないので、一穂が実の弟のように思えた。一緒が嫌だということはない。  しかし、約束の日になってみると、直哉も真里谷も一緒で、しかも、御形の両親まで一緒だった。 「楽しいから、いいか…」  隣で、野球に熱中する御形の一面も見られたから、よしとしよう。
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