第1章

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 逃げていた場所を、見つけられてしまった。 「いつの間に、そんな所に居たの…」  出入り口付近で、背を向けていたというのに、御形が近寄ってきた。 「夜、行くのだろ」 「ああ、俺の能力、電車と相性が悪くて」  過去視が、あれ程までに電車と相性が悪いとは知らなかった。今後、気を付けることにする。 「バイクで行くのか?」  俺は、バイクの免許を持っている。 「そのつもり」  直哉に一緒に行かないか聞いてみて、ダメだったら、真里谷を誘うつもりだった。  あの森に、留まっている何かはある。どうしたら、光の元に行けるのか?解決策を練るならば、一人よりも二人の方がいい。 「俺、置いて行くつもりだったろう?」  ギクリと肩が揺れてしまった。御形の事は、すっかり忘れていた。 「またか…」  御形の事は信頼している、けれど、霊関係となると、置いていきたくなる。御形、見える以外は何も出来ないのだ。人間相手ならば、御形は有能なのだが、霊相手では常に守らねばならない存在になる。 「俺さ、天使技、もう使いたくないのよ」  人間界に居たくなったと言えば、御形は分かってくれるのだろうか。天使の能力を使う度に、人間界に居られる時間が短くなっている気がしている。  俺は、母がイレギュラーな仕事を引き受ける代わりに授かった、天使だった。 「少しでも長く、御形(家)の傍に居たい。だから力も仕事もセーブしたい」  だから、御形を置いて行ってもいいか?と続く前に、御形が俺の手を握った。  ここ電車の中だ。俺は、慌てて御形の手を振りほどいた。 「分かった黒井、俺も頑張る!」  何を頑張るというのだ。  駅に到着すると、御形は迎えの車で、俺は自転車で家に帰る。一緒に車に乗ったりしたら、又、女子学生の噂の的になる。同居しているのは隠していないが、家庭の事情ということになっている。これ以上は、騒がれたくない。  御形の家に到着すると、自転車をガレージに移動する。御形の家は、まるで御殿のような作りで、何故か庭を経由して玄関があった。しかも、かなり広い敷地の寺の一角にあり、自転車で登るのがきつい程の、山の頂上でもある。まるで、城の本丸、二の丸のようだと、時々思う。 「ただいま戻りました」 
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