第1章

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 玄関を入ると自室に向かう。夜、桜の除霊?に向かうのならば、道具を揃えなければならない。何故ならば、俺は除霊も浄化も、さっぱり出来ない。道具を揃えないと、何もできないのだ。  祖母の愛弟子の玲二が、霊に無力な俺用に札を用意してくれていた。その札を、一枚一枚確認してゆく。  部屋をノックする音が聞こえると、俺の返事を待たずに御形が入ってきていた。 「今日は、バイトは無しなのか?」  俺は、駅前の占いの館、農家レストラン春日の二つでバイトしていた。 「いや、夕食後に占いの館の『繋』(つなぐ)に行く。真里谷も一緒。厄介な予約の客が居て。直哉にも来てもらう約束になったと、真里谷から聞いた」  御形が、揃っている札を横目で確認する。 「そうか」  御形が何か企んでいる。御形、何か企んでいると、追及してこない、言葉が少なくなるという癖があった。  御形、表面は好少年で博愛だが、中身は結構、嫉妬深いうえに独占欲が強い。 「今日は、用事があるので、母が簡単な弁当を作ると言っている、それを持って早めに繋に行っていいよ」  用事があるのならば仕方がない。渡された弁当を持つと、真里谷と駅前の占いの館に向かった。 「しかし、やけに、あっさりと御形が引いたな。何か、策を考えているような」 「俺も、そう思う」   真里谷も、最近は御形の性格を把握したらしい。 「でも、ま、仕事しようか、黒井」  今日の予約は、厄介な相手だった。引き受けたくなかったのだが、この占いの館のビルのオーナーの親類のようで、断る事ができなかったのだ。  占い嫌いのうえに、オカルトの類は一切拒否、なのに、占いに行っては、科学的に否定してまわる人物。何がしたいのか、さっぱり分からない。 「しかも、依頼の案件は、事前調査をさせないために、直前に言う、だってよ」  嫌がらせなのか? 「真里谷、俺も来たぞ」  直哉も弁当を持っていた。弁当を開くと、かなりの軽食で、サンドイッチとサラダが入っていた。 「…帰り、ラーメン食べてゆくか…」  駅前に、ラーメン屋が多数あった。 「ああ、でも、一か所寄りたいのだよね」  直哉と真里谷に、電車から見える霊らしき人物と、桜の説明を行った。 「そっちにも、おいしい店があるよ。定食屋だけども、夜遅くまでやっている。学生も多く寄るから、目立たない」
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