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「忍んで暗闇で花見をした。花見なんて言える状況では無かった。でも、死ぬ前にあの桜を見たかった。いや花よりも、彼を見たかったのかもしれないな。彼の横顔が美しかった。清廉で尚、潔く。死なせたくなかった」
柴田の皺は、後悔を刻んでいた。でも、愛おしさは伝わってくる。
「それでは、一緒に会いに行きましょう」
老人の手を引き、店を出ると、繋を店仕舞いする。
しまった、俺達バイクだった。老人に一緒に行くなんて言ってしまい、どうしようかと暫し考えていると、さっさと真里谷がタクシーを捕まえ、老人と行ってしまった。
「そうね、タクシーね」
真里谷、俺の説明を聞いていないようだったのに、しっかり場所は分かっていたらしい。
「真里谷に頭で敵うかよ」
直哉が、俺を見て呆れていた。
バイクで森に到着すると、タクシーが俺達の後に到着した。
「ここが?」
「昔の駅前ですよ」
この土地の持ち主は、鉄道会社だと聞いた。
線路の側に向かうと、丘を登る。
「ああ、昔も丘だった…」
でも、もう桜は無い。
俺は、灰を媒体に霊を実体化する能力を持つ。しかし、霊が見えないので推測するしかない、多分、桜がここに在る。灰を飛ばすと、白に近い花びらが、大量に散り始めた。
「ピンクよりも、白なんですね、桜」
「ああ、古木だった。横に平たく伸びた枝だった」
桜の幹が浮かんでくる。暗い色の幹に、白い花びらが纏わりつく。月が浮かんでいた。
しかし、人の霊はどこに居るのだ。桜だけしか、実体化しなかった。
「彼は、桜を見上げている」
「御形!?」
いつの間にか、御形が丘に立っていた。
「花見しようかと思って…」
後ろを振り返ると、御形家の面々が、レジャーシートに重箱を並べていた。
「最初からそのつもりだったな…」
俺達に渡された、少ない量の弁当の意味が、やっと分かった。
「霊が見えないのならば、位置の分かっている、桜から実体化するだろうなと思ってね」
季節外れだが、見事な桜になっていた。凄く寒いが、光る花びらは美しかった。
「花咲じじいを…させるつもりだったのか…」
枯れ木どころか、既にない木に、灰で花を咲かせてしまった。
「花咲天使ね…」
そこが訂正箇所なのではない。でも、楽しそうに、御形家が花見をしていた。御形の母の用事があるは、もしかして、弁当造りだったのか。
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