第1章

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「そうなんだけどね、実質はうちの会社の管理してる森林などが目当てらしくてね…めぼしい人材以外は…」  要はクビか。解雇と言葉に出さないあたり、この人のいい課長らしい優しさだっただろうが、いざ現実を知ってしまうとその気使いがとたんに空しくなってくる。  よくよく辺りを見れば、他の従業員の机の上にダンボールがいくつか積みあがっているのが見える。恐らく私物を片付けるためのものだろう。すでに荷物が無くなりガランとしてしまった席もある。朝出社したときに感じた違和感にようやく合点がいった。 「そういうわけだから、ね。高橋君も…」  課長はその後もくどくどと慰めの言葉などをかけてきたようだったが、高橋の耳には何一つ届かなかった。視線は宙を仰ぎ、だらしなくため息を吐いた。すっかりと全力で脱力してしまった高橋は、課長の話を一通り聞き終えると足取り重く自分の机へ荷物整理のために戻っていった。  高橋は私物の入ったダンボールを力なく両手で抱えながら、人の気配がまったくしない線路沿いの狭い路地を、一人歩いていた。すっかり日は暮れ、あたりは暗くなっていた。時おり通過する電車が高橋を照らしては走り去っていく。普段は電車通勤だが、この気分でなおかつこのダンボールを抱えたまま電車に乗るような気分には当然ならなかった。  相変わらず高橋の足取りは重い。そりゃそうだろ……当たり前のように続くと思っていた日常がこうも簡単に崩れるとは。歩きながら自嘲気味に笑うしかなかった。一向に自宅に着く気がしない。これからどうする?失業手当は出るのか?今更新しい仕事を探すのか?自問自答しながら、自身の今現在の境遇と同じように暗闇を進むしかなかった。  歩いていると、視界の端にちかちかとしたものが映った。どうやら、路地に転々と立っていた街灯の一つの電球が消えかかっているようだった。そこから視線を切れかけの街灯から下ろしていくと、編み格子に囲まれた砂利敷きの廃車工場が目に入った。いくつもの車が潰されスクラップの状態で積み上げられて放置されている。  月明かりに照らされたその退廃的な光景に、高橋は思わず足を止めてしまった。プレスか何かで潰されてしまったそれらは、もはや原形を留めていない。車種が特定できないほどに潰されてしまった四角い鉄の塊が、ピラミッドの建設途中のように、二段三段積みあがっている。
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