第1章

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 ぼんやりとその光景を見渡していると、ふと目にとまるものがあった。そこらへんに積みあがっている鉄塊ではない。その形には見覚えがあった。メックだ!腕こそないものの、白い塗装のボディに二本の大きな脚。ずんぐりむっくりしたそれは見間違いようがなくメックであった。  よく見るとボディのあちらこちらに傷やへこみが目立つ。廃車工場の照明の柱に寄りかかるように鎮座していた。ちょうど照明の真下にいるので、スポットライトのようにその姿を照らしている。このメックもまた、本来の役目を終えここに運び込まれたのだろうか。高橋はその姿に、自身を投影してしまった。コイツもこんなところで終えたくないだろうに…。ダンボールの端をつかむ手に力が入る。 「気になるかね?」  しわがれた声が、高橋のすぐそばから聞こえてきた。高橋が振り向くとコンビニ袋を携えた80代ぐらいのつなぎ姿の老人が傍らに立っていた。 「わあっ!」  高橋は、人気のない裏路地で声をかけられるとは微塵も思っていなかったので、わずかに驚いて飛び退いた。老人の顔はしわくちゃで、眼が垂れたまぶたの皮に隠れてしまっているが、どことなく笑顔に見える。  老人はそんな高橋の様子を気にする様子もなく、網格子の扉を開けて廃車工場の中へと入って行く。 「入ってきな」 「えっ!?いや…あの……」 老人が手招きしてきた。高橋は廃車工場に用があったわけではないので、僅かにためらったが、家に帰っても特にやることも無く、メック自体には興味があったので誘われるがまま、恐る恐る敷地内へと足を踏み入れた。  近づくとメックの姿がはっきりと見えてきた。大きさからすると、第1世代のスポーツ用メックのようだ。スポーツ用メックとは、主に専用サーキットや街中で開催されるレースで使用される特殊なものだ。脚部にローラーが仕込まれていて、それを駆動させることでインラインスケートのように走ることができる。  レースといっても、自動車レースのようにただサーキットを周回するだけではない。壁走りにジャンプ、時には格闘戦なども行う。コース上でメック同士の激しい闘いが繰り広げられるレースは“メックバトル”と呼ばれ国内外に絶大な人気を誇っている。当然、高橋もメックバトルの大ファンだ。 「ずいぶん古い型だがぁ、知ってるかい兄ちゃん?」  老人はコンコンとボディを叩きながら尋ねてきた。
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