第1章

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 朝日が差し込むカーテンを、しかめっ面でめくった。燦々と照らす朝日に目を細めた後、眼下を見下ろした。自室の二階の東側の窓からは、目の前の駐車場が見える。高橋も愛車のボロ軽自動車のために1つスペースを借りていた。  しかし、普段とは見える景色が違う。軽自動車が止めてあるスペースの前方の余白に、白いボロメックが直立している。そう、昨日廃車工場で出会ったあのメックだ。 「何でアレ買っちゃったんだろうなぁ…僕…」  高橋は昨日の夜の出来事を思い返した。あのボロいメックのモーター音を聞いてから、胸の高まりを抑えきれなくなって、会社からささやかに出た退職金とハンコで購入手続きをあれよあれよという間に完了してしまった。  廃棄品らしく譲渡の手続きは、高橋が現実に戻る前にペラ紙1枚だけで済んでしまった。髪をヒラヒラしながら、「まいど」と言った廃車工場の老人のニヤけ顔が頭に浮かんだ。購入金額は恐ろしく安かった。これが高橋の背中を押した決定的な原因でもあった。  そこからが大変だった。メックの免許は取得しており、日々ゲームセンターでメックの操縦を擬似的に磨いている高橋だったが、第1世代のメックは多少操作方法が違って動かすのに一苦労した。  死に物狂いで自宅の駐車場へを誘導したのはいいが、借りている駐車場の余白スペースに止めるのにも一苦労した。その際、メックの操作を誤って自分の軽自動車のバンパーを脱落させてしまった。  更にその盛大な音──そもそもスポーツ用メックのモーター音がうるさかったのもあるが──に自宅のアパートの隣に住んでいる大家が目を覚まし、機上の高橋に大目玉を食らわせた。契約上はクルマ一台、メックは認めていない云々を延々と。  実際、駐機のことを一切失念していた高橋に反論する余地はなかった。どうにかこうにか大家である50代のマダムの機嫌を取り直し、今日一日だけ猶予を認めてもらうことができた。が、今からメックの駐機スペースを借りなければいけないことを考えると改めて気が滅入る。ただでさえ職を失ったばかりなのに。 「いっそ、軽自動車を売って別のところにメック用の駐機場を借りるか…?」  頭をぼりぼり掻きながら、シャワーを浴びるために窓際から離れた。再就職に駐機場、地方にいる親への報告etc…。考えることが多すぎて直ぐにでも熱湯で頭をリセットしたいところだった。その時。 「あー!!!」
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