第1章

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 窓の外から、中年男性と思しき叫び声が聞こえてきた。目を丸くした高橋があわてて窓際に近づいて外のを伺った。すぐに叫び声の発信源が分かった。べたべたと自分の買ったボロい白メックに触れている白髪混じりの屈強な体つきの人影が見えた。高橋はすぐさまスリッパをはいて駐車場へと向かった。 「太ももの中に見えるのは四菱工業の新型のメタルマッスルユニットか?奥に見えるショックアブソーバーは古いがかなりメンテナンスが行き届いている…。動力源は…」  屈強な男性は、汚れたつなぎ姿をしていた。整備工だろうか?ブツブツ言いながら食い入るようにメックの各所を覗き込んでいた。 「あのぅ…、僕のメックに何か用ですか…?」  恐る恐る声をかけてみた。声に気づいたつなぎ姿の男性がこちらを向いた。 「あ…?あぁ、これは君のメックかい?」  つなぎの男性が、汚れた手袋をはめた手の親指で後ろを指した。昨日今日でメックを手に入れたばかりの高橋は、まだ自分のだと主張するほどの愛着もなかったが、肯定するために小さく頷いた。 「えぇ、これは…」  言うが早いか、つなぎの男性が一気に距離詰めて高橋の両手を汚れた手袋でがっしりと掴んだ。 「売ってくれ!!」  眼前でいきなり大きな声で提案を告げられた高橋は、あまりの気迫に顔を背けてしまった。麻黒に日焼けた肌の顔には爛々と目を光らせて期待に溢れた表情が張り付いている。高橋は自体が飲み込めずにいた。 「えぇ…!?急に言われてもその…」 「じゃあこれでどうだ!?」  間髪いれずにつなぎの男性が言葉を被せてきた。掴んでいた手を離すと、ポケットから計算機を突き出してきた。表示している数字は、購入額だろうか。自分が購入した金額よりも三桁も0が多かった。  職を失ったばかりの高橋にとっては願ってもない提案だった。スクラップ同然の価格で譲り受けたものが、これだけの値段で売れるとなると向こう数ヶ月食いしのぐことが出来る。思わず生唾を飲み込んだが、このメックにどんな価値があるのだろうか? 「あの…このメックそんなに凄いんですか…」  純粋な疑問だった。朝日の下にさらされた白いメックは、改めてみると夜に見た姿よりもボロボロに見える。つなぎの男性は振り返ってメックの太ももの装甲に触れながら言った。 「こいつはノーティフロッグ。十数年前に活躍したレース用のメックだ。コイツをずっと探していた…」
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