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つなぎの男性はうっとりとした表情でメックを見上げた。その眼差しには、どことなく少年のような羨望が混じっているように見えた。
「この近くの廃車工場に置いてあると聞いて慌てて飛んできたんだが、オーナーにもう売ってしまったといわれてな…。ガッカリしていたんだが、ここで出会うことが出来るとは!」
今気づいたが、駐車場に面する道路に“GARAGE FURUSAWA”と書かれたトラックが見えた。荷台には大量の工具やらパーツ、後ろにはメック牽引用の二輪トレーラーが見えた。
男は、今にも生き別れた兄弟に抱きつくように飛びつきそうな雰囲気すらあった。高橋はその様子に少し引きながらも尋ねてみた。
「で…このメックで何を…?」
グワっとつなぎの男性の顔がこちらを向いた。
「そりゃあもちろん、メックバトルだよ!」
たじろぐ高橋。そんな様子も気に留めずに、男は言葉をつないだ。
「ウチの整備工場はメックバトルもやっていてば…あぁ、名乗るのが遅れたな、俺は古澤。ガレージフルサワの社長兼整備長だ」
汚れた手袋を外して握手のために歩み寄ってきた。さっき外して欲しかったな…。すでに汚れた両手を見つめながら古澤を見つめ返した。
「細々とメックバトルを続けていたんだが、つい先日のレースでうちのデモメックが壊れてしまってな…乗り手も怪我をして辞められてしまったんだ」
「もう父さんもメックバトル辞めたら?カネはかかるし宣伝にはならないし…ねー、早く行こうよ。学校遅れちゃう」
古澤とは別の声がトラックから聞こえてきた。その方向に視線を向けると、トラックの助手席のドアの窓の淵に腕を乗せ、うんざりとした視線を投げかける女子高生の姿があった。肌はうっすらと日に焼け、長い茶髪は後ろでポニーテールにしている。古澤の娘さんだろうか…?
「うるせぇ!もう少し待ってろ!!」
古澤が間髪いれずに、女子高生に怒鳴り声を上げた。その声量にビクッとした女の子は古澤に向けてベーと舌を出した後車内に顔を引っ込みかけた。その時、たまたま目の合った高橋に、耳を塞ぐジェスチャーと、愛想のいい笑顔で会釈をしてから引っ込んだ。
「すまない、話が脱線した。で、だ。改めて言うがノーティフロッグを売って欲しい。俺はまだやり残したことがあるんだ」
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