ラストと竜

9/17
前へ
/131ページ
次へ
ラストとレイヴンが見守るなか、ゴドフリーは島全体に契約の陣をはる。それに気付いた炎竜は煩そうに眉間に皺を寄せた。 《身の程を知らぬ愚かな者よ。我が島に何の用だ》 「炎竜!輝く鱗を持つ者よ!お前は古の盟約により北の大地に住むのではなかったか?」 炎竜は鼻から黒い煙を吐きながら、ゴドフリーに向き合う。 《確かに私はその昔、ささやかな力を持つか弱き者に人の住まぬ地に住む事を約束した》 言うと炎竜は大きな炎をゴドフリーに向かって放つ。しかし、大きさの割には威力は少ない。威嚇のようだ。 ゴドフリーは難なくそれを跳ね返す。 「お前の今いる島は翼竜の島だ。お前が来たせいで、翼竜たちが人の住む土地に来て困っている!」 《約束をしたのは、人の住まぬ土地だ。竜の住む土地に来ても約束を破った事にはならない。翼竜と人の問題ならば、翼竜と人で解決すればいい》 炎竜はゴドフリーの頼みを聞く前に一蹴する。 ゴドフリーは一瞬言葉に詰まるが、ラストに大見栄を切った手前、挫ける訳にはいかない。 『あいつ、なかなかやるな』 真正面から炎竜に対峙する姿を見て、レイヴンが少し見直したように口笛を吹く。 「セントラルの魔法使いなんだ。新人でもそれくらいはやって貰わなきゃ困る。それよりも、問題はこれからだ」 『ややこしい事にならないと良いけどな』 馬鹿にしたように笑うレイヴンにラストはため息で答える。 「やるのは俺たちだぞ?本当に手頃なところで手を引いてくれる事を祈るよ」 そんな2人の会話は聞こえてはいないが、ゴドフリーは次の手に出る事にする。 「どうしても、この島を退かぬと言うならば、真実の名でもってお前を北の大地へと帰す!」 その言葉に炎竜は大きく炎を上げて笑う。 《身の程を知らぬ愚かな者よ。私の名を暴くと言うのか?やりたければやってみるがいい》 ゴドフリーは大きく唾を呑み、炎竜の本質へと迫る。 「竜の中の竜よ。お前は灼熱の炎」 《ご名答。それだけでは真実の名には程遠いがな》 炎竜は大きな翼を広げ、島を飛び出しゴドフリーを呑み込むように灼熱の炎を上げる。 「溶岩の塊、揺らぐ大地」 ゴドフリーが少しずつ本質に迫るのを炎竜は楽しそうに目を細めて待つ。 「煮え立つ大地、崩れる山々」 契約の陣の中で真実の名に迫る鎖が炎竜を繋ぎ止めていく。
/131ページ

最初のコメントを投稿しよう!

231人が本棚に入れています
本棚に追加