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《人の子か。戦士でもなくまだ幼いようだが、この私に何の用があると言うのだ?》
ハラハラと溢れる火の粉が風に舞い、歩みを止めたウェンズデイの足元に舞う。
「私は別にあなたの財産を頂きに来た訳でも無謀な戦いを挑みに来た訳でもないわ」
姿を見るまでは恐ろしさに震えていたウェンズデイの声は、その竜の美しさに圧倒され恐ろしさとは違う震えが出ている。
《そうか。そんな人間に会うのも久しぶりだな。だが、私には近付かぬ方が良い。私の体内はマグマで出来ている。私が何も思わぬでもただ吐く息でその身を焼き尽くしてしまうか知れんからな》
背中に全身の毛を逆立てながらも止めようと頑張るロロを貼り付けたまま、ウェンズデイは更に一歩前に出る。
「近づくなって言われても……。私はあなたの財産を頂きに来たんじゃなくて、冬至祭の材料にあなたの涙を頂きに来たのよ」
《私を泣かせてみせるつもりか?面白い事を言うな》
透き通るような青い目を細めて竜が笑う。鼻から漏れる息も燃えるような熱風を伴っている。
「あっつ!正面に立っていたら、ホントに焼け死んじゃうわね!」
『もう帰ろうよ!ウェンズデイは頑張ったって!この竜に悪気は無いかもしれないけど、このままじゃ欠伸の一息すら受けらんないよ!』
ロロが必死に後ろに引っ張ろうとするが、ウェンズデイは動かない。
《その魔物の言う事は正しい。人の子よ。誰かと話をするのは久方ぶりで楽しかった。その柔らかい身が焼き尽くされる前に立ち去るが良い》
竜はその身をまた暗闇の裂け目にゆっくりと戻し始める。
「ダメよ!」
ウェンズデイはいきなり竜に向かって走り出した。
『ちょ!竜から離れるならともかく、近付いてどうすんだよ!そんなにラストの鼻をあかしたいのか!涙が取れても死んだら意味が無いんだよ!』
「違うわよ!馬鹿!竜もちょっと息を止めてなさいよ!」
突然の出来事に思わず息を止める竜にウェンズデイは真っ直ぐに走り、そのまま竜の体に飛び付き肩の辺りまで一気に登る。
「たったあれきり喋っただけで、楽しかったなんて言わないで貰いたいわね!」
一息ついて竜の大きな肩口に座る。
『竜は誇り高い生き物だぞ!許可なく体に乗るなんてどうかしてるよ!』
ロロは泣きそうな声で叫ぶが、ウェンズデイの側から離れる事はない。
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