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南へと下っていくと、降りかえっても陸は見えなくなり、エメラルドに輝いていた海も深い藍色へと変わっていく。
『もう、世界の果てだな』
レイヴンは暑さのせいか自分で飛ぶのを止め、ラストの箒に鋭い爪を立ててしがみついている。
「本当の果てはもっと先なんだろうけど、ここまで来れば普通の人は来れないだろうな」
ラストは答えるが、顔は晴れやかとは程遠い。
「なんか、この先の島は嫌な予感しかしないんだけど……」
ラストの元々持っている魔力を読み取る力が、翼竜の島に近付くにつれ、心当たりのある嫌な魔力を告げてくる。
『そりゃ、大当たりだろ』
翼竜の島が見えてくると、そこには白銀と黄金に輝く鱗を持つ翼竜の倍はあるかと思われる竜の姿が見えてきた。
「炎竜……」
炎竜は子を成す種族ではなく、正確な数は分かっていないが、非常に少ない事は確かだ。ルミナス国にはウェンズデイと契約を結んだ炎竜しか確認されていない。
その事を考えると眼前に見える島にいるのは、ウェンズデイの炎竜なのだろうが、炎竜は地図に棲処を描ける程にあまり動かない竜でもある。
それが何故に北に広がる山脈の奥深くから、こんな南の海洋に出て来たのか。
炎竜は楽しげに炎を吹きながら、何やら作業をしているようだった。
「あれが炎竜……」
普段、ウェンズデイを馬鹿にしているゴドフリーは炎竜の姿を見るのは初めてのようで、ラストの隣でゴクリと唾を呑む。
『こりゃ、面倒な事はしなくて良い。ウェンズデイを引っ張り出してくりゃ解決だ』
レイヴンの提案にラストは頷くが、使い魔から通訳をして貰ったゴドフリーは反論する。
「待ってください!これはラストさんと僕に頂いた仕事です。何もせずに帰る訳にはいきません!」
たいした活躍をせず、ウェンズデイに美味しいところを取られてしまうのは、ゴドフリーのプライドが許さないのだろう。
「ラストさんが何もしないのであれば、僕にこの仕事を試させてください。ノートに出来る仕事が僕に出来ないなんてあり得ない!」
ゴドフリーは言うとラストの返事を聞かず詠唱を唱え、炎竜に近付いていく。
『好きにさせとけよ。どのみち、セントラルにいるなら、どっかで危険な目には遭うんだ。ここならば、周囲の被害が少なくて済むぶん、自分の力量を知る絶好の場所だぜ?』
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