ラストと竜

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「おかしくないか?」 ゴドフリーが順調に真実の名に迫っているのを訝しんでラストは自分の使い魔に囁く。 『そうだな。自由を尊ぶ竜があんなに縛られても余裕で笑っている』 レイヴンの顔も険しくなる。 炎竜は楽しそうに笑いながらゴドフリーに向かって炎を上げた。炎は溶岩となり、海に落ち、海面は水蒸気で靄がかかったようになる。 「おかしい。竜の魔力がどんどん上がっている!」 炎竜はチラリとラストを見るとゴドフリーの張った契約の陣を簡単に壊してしまう。 しかし、ゴドフリーは気付いていないのか、操られたように本質を見極める言葉を紡ぎ続ける。 「煮え立つ海、消えない炎、毒を持った空気!」 「ゴドフリー!止めろ!罠だ!」 『契約は失敗だ!』 ラストとレイヴンは島に近付き、ゴドフリーを止めようとするが、制止を聞かずゴドフリーは炎竜への契約を続ける。真実の名に近付く為の鎖はまだ消えていないのだ。 「ラストさん!見ていてください!ノートはセントラルに必要な特別な魔法使いじゃない!」 ゴドフリーは叫ぶと、炎竜に向けての最後の言葉を探す。真実の名に繋がる楔を心臓に打ち付ければ、どんな精霊でも真実の名を隠す事は出来ない。 「其は黒煙を上げながらも輝きを増す炎」 ゴドフリーの言葉は心臓に穿つ楔にはならない。代わりに炎竜は更に大きく凶暴になっているようにも見える。 「ゴドフリー!いい加減にしろ!周りをよく見てみろ。ここを竜どころか魚すら住めない場所にしたいのか!」 ラストは呪文を唱えてゴドフリーの口を閉ざす。 翼竜のものだった島は既に草木もなく、地形すら変わっている。周囲には硫黄の臭いが立ち込め、茶色く変色した海水からはもうもうと湯気が上がる。 「炎竜。そう、お前は炎竜だ……」 ラストは負けを認めるように、炎竜と呼びかける。ゴドフリーが契約をしようとしていた時はラストもレイヴンも炎竜と呼ばなかった事に思い当たった。 「炎竜。そうか、この名は始祖の大魔法使いの楔なんだな」 そう言うと、炎竜と呼ばれた竜は、元の大きさへと戻り、可笑しそうに炎を上げた。 「ゴドフリー、お前の負けだ。先に帰れ。もう、ここでお前がする事は何もない」 ラストは何か言いたそうにしているゴドフリーの沈黙の魔法を解かず、強制的にセントラルに追いやった。
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