冬至祭

14/17
前へ
/131ページ
次へ
《名残惜しいが私は早々に立ち去ろう。人の住む地に長く留まると人は要らぬ恐怖を覚えるものだからな》 「箒に乗れなくても遊びに行くわ」 その会話を最後に竜は月の光をその美しい鱗に反射させながら、自らの棲処へと飛んで行った。 「あっと言う間に見えなくなっちゃった」 ずっしりと重みを増したベッドカバーを持ち上げ、学園の方へと足を向けた時、森の影に人の姿が現れた。 「さっきの。ドラゴンか?」 影はラストの声でウェンズデイに問いかける。ウェンズデイは自分の持っているベッドカバーを見て憎々しげな顔に一瞬歪むが、中に入っている結晶を思い出し勝ち誇った顔に変わる。 「そうよ!残念だったわねラスト!私、ちゃんと期限内に【竜の涙】を用意したんだから!」 影から茫然とした顔のラストが現れる。ウェンズデイはもちろんだが、クラスの皆や先生だってそんな顔のラストを見た事は無いだろう。 「参ったななぁ。何でウェンズデイはいつもいつもそんな予想外なんだ?」 言いながら、ぶっきらぼうに手に持っていた花をウェンズデイに差し出す。 「何よ?これ」 『愛の告白?』 レイヴンが隣でロロの言葉をラストに告げ口する。レイヴンの顔も心なしか苦々しげに見える。 「馬鹿。んな訳ねぇだろ?これが冬至祭で必要な方の【竜の涙】。険しい崖に咲く花の名前なんだ。まさか本当のドラゴンの涙を取ってくるなんて……」 「う…そ……」 愕然とした顔になるウェンズデイとロロにラストは笑い出す。 「なんでそんな顔になる訳?」 「だって……このままじゃ落第じゃない!それだけじゃないわ!役立たずって学園を追い出されちゃう!」 「君は自分がどれだけ凄い事をしたかって自覚は無いの?ドラゴンの涙なんて今世界にいるどの魔法使いにだってそうそう取って来れるもんじゃないんだぜ?」 ラストは【竜の涙】をウェンズデイに押し付ける。 「お前の用意した【カナリアの羽根】はちゃんと後で俺んとこに持って来いよ。冬至祭には俺がそのくだらない【カナリアの羽根】出してやるからな」 それだけ言うと、笑いながら去っていく。 『ラストは負けず嫌いだからな。元々、ライバルと思ってる奴しか意地悪しないよ』 ニヤニヤと笑ってラストの大鴉も去っていく。 「これって……」
/131ページ

最初のコメントを投稿しよう!

231人が本棚に入れています
本棚に追加