冬至祭

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ウェンズデイだって落ちこぼれではあるが馬鹿ではない。近い将来に歌に詠まれるだろう魔法使い相手にわざわざ喧嘩を売ったりはしない。 「お前が暴力を振るうから、俺が迎えに行く羽目になったんだ。早く来いよ。面倒くせぇ」 ラストの肩に乗る使い魔の大鴉(レイヴン)も馬鹿にした笑い声を立てている。 喧嘩は売らないが買うのは別だ。ラストは何かにつけウェンズデイを馬鹿にして悪口を言って笑い者にする。 「あんた。もう1回殴られたいの?」 言い終わらないうちに持っていた箒をレイヴンに投げつけた。 が、投げつけられた箒は小さく何か呟いたラストの手の中に簡単に収まってしまう。 『ウェンズデイの手にあって奇跡のように無事だった箒を破壊してやるなよ。箒が可哀想だぜ?』 通常ならば、自分の使い魔以外とは詠唱なしでは会話は不可能だし、許可を取らずに他人の使い魔と会話するのはマナー違反だが、ラストもその使い魔も気にした風もなくその口をウェンズデイを馬鹿にする事に使ってくる。 レイヴンは先日の飛行訓練でウェンズデイが何本もの箒を誰よりも速く、誰よりも遠く箒のみを飛ばして壊した事を嗤っているのだ。 「このお喋り嫌味鴉!」 レイヴンに飛びかかろうとするウェンズデイを今度はきっちりと避けて、何事も無かったようにラストも続ける。 「別にここで更に箒の破壊記録を作りたかったら止めはしないぜ。お前の為に簡単に集められるヤツを残しといてやるからさ」 レイヴンが冷ややかに笑い、ラストも馬鹿にしたようにウェンズデイに箒を返すと、あっさりと教室に戻って行く。 「……あいつら!」 ウェンズデイは悔しさのあまり言葉を無くして地団駄を踏んだ。 冬至祭の材料集めは、学園の最上級生がする国の為の初仕事になる。 古い太陽が死んで新しい太陽が生まれると言われるこの日に、来年から仕事を始める新しい力が入った材料で新しい太陽を迎えるのだ。 最上級生にとっては初めての大仕事であり学園での最後の総仕上げとなる、もっとも重要な大イベントだとも言える。 「そうだ!冬至祭よ!冬至祭だわ!ラストなんかに構ってる場合じゃない!冬至祭で一番難しい材料を取ってきたら、卒業は無理でも学園から追い出される事はないわ!」 『どうだかねぇ』
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