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翔は、滝業師になりたかった訳では無い。
両親に先立たれ、それでも大学に進学し宇宙工学を学び、ロケットの開発を夢見ていた時期もあった。
ところが、ロケットエンジンの実験時、液体燃料に引火、爆発。エンジンの近くでデータを集めていた、研究室の友を失った。
友を失った心の傷、人の命の重さ、世間の批判、罪の擦り合いなど、人の醜い姿に嫌気が差し、人生を考える為、修行の出来る場所を探し修行をして歩いた。
座禅を組んだり、胡麻業、山伏に付いて修行など狂ったように修行していた。
そんな一心不乱な姿を見て、山伏の長が滝業を教えた。
さっそく翔は、滝業の出来る場所に向かった。
山伏が紹介してくれた場所は、今で言う隠れ家的なパワースポットとでも表現しておこう。
獣道の様な道を歩き小屋に着いた時には、夕方になっていた。
小屋の入り口の戸を叩くと、仙人の様な老人が出てきた。
「こんな時間に、どうしたのかな?」
「滝に打たれたいんです。お願い致します」
老人は、翔の目を凝視して、
「いいだろう。ただ、日が暮れてきた、明日になるがいいかな」
翔は老人の言葉に、少し心が和らいだ。
泊るという事で、翔は老人の手伝いを積極的にしていた。
薪を割り風呂を沸かし、晩御飯の用意をしていると老人から、
「風呂へ入って、身を清めなさい」
そう言われて、風呂へ入った。
夕食を頂いた。
山菜ときのこの汁物、岩魚の塩焼き、今の翔には豪華な食事だった。
食事をしながら老人が聞いた。
「君は何故、ここへ来た」
翔は箸を置き、
「人生を考えたいのです」
老人は、
「ほう、人生か。本当は過去の償いではないのか?」
翔は答えられなかった、老人の言っている事が修行の答では? と思った。
「明日、聞いてみるんじゃな」
老人はそう言って、黙々と食事を続けた。
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