滝業師

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就寝する前に老人から、 「明日は、夜明け前にここを出て、日の出と共に滝に入る」 「有難う御座います」 「枕元の白装束を着て行くぞ」 枕元には、白装束が用意されていた。 翔は一人、布団に入り目を閉じていたが、先程の老人の言葉が気になり寝つけない。 「過去の償いか・・・」 心の中で何度も繰り返していた。 起床時間になり、老人に起される前に、顔を洗い布団を片付け白装束に着替えた。 老人も白装束を身にまとい、翔を待っている様子であった。 「早いな、準備は出来ているみたいじゃが」 「はい。準備出来ております」 老人はスッと立ち上がり、玄関の方へ向かい翔もその後について行った。 草鞋を履き、滝へと向かう。 細い道を歩き、約10分位で滝に着いた。 辺りは、日の出が近いのか薄明るくなって、静寂の中に滝の音が、辺りをより静粛な雰囲気にしていた。 滝は約10メータ位の落差があり、白い竜が空へ昇って行く様に見えた。 滝の手前には、石を彫り湧水を溜めている槽がある。 「ここで、身を清めてから滝に入る」 老人は、ためらいも無く水を頭からかぶった。 三回かぶり、翔に交代した。 暖かい季節とは言っても、山の中空気はひんやりしている。まして、溜めている湧水もかなり冷たい。 翔は、老人と同じ様に三回水をかぶった。 水の冷たさが、ガーンと頭を殴られる位の衝撃であったが、三回目には何も感じなくなっていた。 清めが終り、滝に向った。 「滝に入ったら、自分の吐き出したい事を全力で叫ぶんじゃ」 老人はそう言って先に滝に入り呪文みたいな言葉を言った。 言葉は、崖にこだまして森に消えた。 「交代じゃ」 翔は、滝に入った。 全力で叫んだ。 「過去を償いたい!!」 滝に打たれながら、何度も何度も繰り返し叫んだ。 言葉が崖に、こだました。  森に言葉が消えて行く。 滝から出て来た翔は、今迄の修行とは異なり達成感を感じていた。 滝から離れ振り返ると、朝日に照らされた滝は、黄金の龍が天に昇って行く様に翔の目には映った。 黄金の龍に見守られ、二人は滝を後にした。
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