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(…熱い…苦しい…!)
一人の幼子が燃え盛る炎の中を駆け回る。
崩れ落ちた屋敷は、飲み込まれ、炎は勢いを増していく。
『逃げて…あなただけでも…』
『お逃げ下さい…私共なら大丈夫です…』
自らの呼吸音と共に頭に響く声。
人間の焦げる臭い。
阿鼻叫喚。地獄絵図。
肺が汚れていく感覚と意識が薄れそうになりながら駆けずり回り、同時に大量の雫が目から溢れ出る。
(誰か助けて……皆が死んじゃう…!)
息を切らし、炎を抜け、尚走り続ける。
(ひどい……どうして……どうしてこんなこと…)
『………ぇ』
声が響いた。
(何…?)
声に気を取られ、幼子は転ぶ。
体が重い。
力が入らない。
このまま皆のように焼けて死ぬのだろうか。
何も出来ず、弱いまま。
薄れゆく意識の中で幼子はそんな思いを抱きながら、誰かの声を聞いた。
あの人は……。
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