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「うぅ……」
少女はぼんやりと目を開ける。
嫌な夢を見た。
覚えていないがそんな気がする。
口元が痛い。
縄のような物が口を塞いでいるようで、呼吸が苦しい。
更に体もぐるぐると厳重に縛られている。
「…?」
見回すと、少女がいる場所は、やや埃がかったような、狭い部屋。
灯りも何も無い部屋で少女は無造作に転がされていた。
「お、起きたか」
突然耳に入った声に、少女はびくりと身を震わせる。
「少し待ってろよ」
よっこらせと言いながら障子を開けて部屋を出ていったのはまだ若い青年だった。ような気がした。
「……」
(ここはどこ……?私は……何故こんなところに……)
意識が明確になるにつれ、少女は目覚める前の記憶を思い出そうとする。
しかし……
(あれ…?私、何していたんだっけ……)
少女は思い出せなかった。
自分の名前も、目を覚ますまでの事も、何一つとしてわからなかったのだ。
(ど、どうしよう……)
困惑しながらも何とか体の縄が解けないかと足掻いてみるも固くきつく結ばれた縄は緩みもしなかった。
(……私は今捕まっているの…?何をして…?これから、何をされるの……?)
頭には最悪の結末が浮かぶ。
焦りと困惑からまた縄を解こうとする。
「おい貴様、何をしている」
後ろで凛とした声が響く。
無意識に声のした方向を見ると、思わず目を奪われてしまうほどの美しい男がそこに立っていた。
開けたままの障子から零れる月光に照らされなびく黒髪、少女を射抜く金色の瞳。
文久三年、八月十七日。
月が輝くこの夜に、幕末という時代を大きく変える、一つの出会いがあった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 華言葉~想収録~
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