第1章

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 結局、最後の最後までホットでクールなチョコレートを演じきった〝黒幕様〟は、「せめて僕のタキシードが君の身の潔白を証明し、手紙が君に新しいイベントを引き起こすことを約束しよう」――――最後の最初で、〝黒い〟言葉だけを吐き捨てた。  白さで誤魔化していた〝黒さ〟さえも失ってしまったチョコレートは、いったい何色になってしまったのだろう。――――答えは明白だった。  さて。  チョコレートの沼を越えるのはもう少し後にしよう。次は鉄の看板が示す先へと向かおうじゃないか。  その前に一つやることがあった。  まるでこの世界がゲームだとするのならば、まさしく〝セーブ〟をするような感覚で、〝わたし〟は携帯電話に登録されている一つのアドレスを呼び出した。  電話の音は、〝わたし〟の鼓動に似ているから嫌いなのだけれど、でも電話をしなければ、また〝アノ場所〟に戻されてしまうような気がして怖かったのだ。    しばらくして携帯電話の話し相手は、〝呼び出し音〟から、〝留守電〟へと変わった。   「聞こえていますか、博士。私の名はビュルテ。ちょうど今、チョコレートで喉を潤していたところです」  〝わたし〟はやっと安心感と満足を得て、携帯を閉じ、一歩を踏み出そうとした。  すると、まったく偶然の悪戯みたいに、突然雨が降りだして、  瞬間的にチョコレートのようにぬかるんだ土が、〝わたし〟の靴に纏わりついて離れて落ちなかった。
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