第1章

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 放課後。  帰りの電車に揺られつつ、僕は大きなあくびをしていた。片道一時間の道のりは長い。 「近江さん、こんな遠い学校に通っていらしたんですね。ご自宅の近くにも学校があったじゃないですか。ほら、なんか葉っぱのマークの……」 「ああ、紫草のマークの? 額田女子ね。あそこ伝統校とか言ってなんか堅苦しいから、僕にはこっちの方が合ってるんだよ」 「なるほど。確かに小町女子は校風が緩いですよね」  そう言ってスカートを引っ張る。 「私は、制服が好きでここに来たんです。この近辺では、ここが一番」  確かに淡い水色のセーラー服は、彼女の白い肌によくなじんでいるように見えた。 「……でも、まさか近江さんがいるとは思わなくて、びっくりしました」  それはこっちの台詞だ。 「いやいや、佐々さんこそ。こんな時期に転入してくるなんて、びっくりしたよ」  通常、転入試験が行われるのは春休み・夏休み・冬休みの三回であり、したがって転入生は一・二・三学期の初めに入ってくることになる。五月の中頃なんて中途半端な時期に入ってくる転入生など、例外中の例外としか思えない。 「本当は春休みに試験を受けていたんです。ですが……一学期初日には、とても……」  そのまま彼女は黙ってしまった。  言いたくないのだろう。いや、言いたくても言えないのかもしれない。  言うべきじゃなかったな……くそ。  僕は自分で踏んだ地雷の処理は自分で行うべく、話題をぐいと明後日の方向に向けた。 「そういえば、そろそろうちの学校でも体育祭があるんだ。二年生は中心だとか言われて結構種目が多いけど……女子高なのに組体操まであるから、嫌になるよ」 「近江さんは小柄ですし、てっぺんとかになってしまいそうです」 「……うん」  事実てっぺんである。  怖いんだよ、組体操。  一回落ちたし。  その様子を見て、彼女はクスクス笑う。 「組体操の練習は、もう始まっているんですか?」 「うん。そうだけど」 「そうですか。……では、私は入れそうにないですね」 「そうだね……他はともかく、そこだけは見学かも」 「……そうですか」  そして少し思案しているようだったが、やがて彼女は嬉々として、思いついたように言い放った。 「では近江さんが落ちたときは、私が受けて差し上げます」  できるか。
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