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生まれて初めて打たれた頬に、その後に続く言葉を奪われた。 わなわなと震えだした手は行き場を失くし、私の膝の上でただただ白くその拳を握りあげる。 「亜子。聞き分けろ。お前はこちらにいる眞緒さんと結婚するんだ。」 「……どうして…?パパもスバルのこと…、好きだったじゃない…っ!」 カッと見開かれた皺だらけの目元に言葉を失くしたのは一瞬のことで、先に目を逸らしたのは父のほうだった。 「黙れ…。頼む。……黙ってくれ。」 隣のひざ下で握られた大きな拳と、父の苦しそうな顔を見て、その時私はやっと理解した。 私の戸籍が、父からこの男に……。 普段からバカにしていた金で、売られてしまったということを。
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