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そうして、扉の中から聞こえてきた讃美歌が終わると、代わりにパイプオルガンの奏でる聞き慣れたメロディーが始まる。 新婦の入場曲だ。 会場スタッフの急かす声に、差し出された父の腕を掴んだ数秒後、扉はゆっくりと大きな口を開いて開け放たれた。 左右の参列席に見知った顔が一人もいないのは、薄っぺらな私の交友関係を意味している。 これでは一体どっちが私側なのかわかったもんじゃない。 そんな気持ちで視線を正面に向けた時、私は短く息を吸い込んだ。 そこに立っていたのは、片方の口の端を吊り上げるような嫌な笑みを携えた男。 それは、私の理想通りの結婚式を唯一裏切った男の、タキシード姿だった。
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