【プロローグ】

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「だとしても…!あの子でなくとも、うちにはまだ上に二人も娘がおりますし…。」 「そうですか…。では、この契約書は破棄させていただくことにします。」 その言葉の直後、目の前からさざ波のように引いていく一枚の紙切れ。 そこに記してある条件と、これまで慈しみ育ててきた娘。 その天秤の片方が取り除かれそうになったとき……。 男は、父であることを捨てた。 「待ってください!!……っ…。何とか、何とか娘に言って聞かせますので…。」 苦し紛れに吐いたその言葉と同時に、娘の愛くるしい笑顔が頭の片隅を横切っていく。 初めてひとりで立った日のことを。 初めてその口が”パパ”と呼んだ日のことを。 そして…。 初めて、自分以外の男にバレンタインのチョコレートを用意した日のことを。
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