真夜中あなたに思うこと

【２】

新居へと向かうブライダル専用のリムジンの中。

この結婚を言い渡されてからずっと堪えてきた分の涙が、喉の奥からじわじわと苦みを伴って込み上げてくる。

隣で踏ん反り返っているこの男が、これから私の”初めて”をすべて奪っていくのだろう。

そう思えば思うほど、大事に取っておいたのはこんな男の為なんかじゃないのに、と拭うことも諦めた涙がはらはらと頬を伝って滑り落ちていった。

なんで、私が。

どうして２人の姉ではなく私が。

車の窓を打ち付ける大粒の雨が、そんな私の醜い素顔と嗚咽を隠すように暗幕を降ろしてくれていた。

そうして、私はこの日。

椎名亜子から、望月亜子となった。