【プロローグ】

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この22年間。 自分を”パパ”と呼び慕い、小さな手を無条件に差し伸べてくれた娘の信頼を、彼は初めて裏切った。 3人いる娘の中でも、上の2人に比べてわがままで世間知らずで頭も悪い、そして何より甘えん坊の末っ子娘。 3人に対して分け隔てなく接してきたつもりではあったが、それはどうやら大きな勘違いだったらしい。 然程きつく巻いてきたわけでもないのに、首を巻くネクタイの締め付けに酸素を奪われながら、彼は唇を噛み締めた。 まさか自分が……。 愛娘を金で売る日がくるなんて、と。 そんな彼の心情を思いやるでもなく、目の前に座る男は感情の読めない声で嗤う。 「ありがとうございます。…お義父さん。」 冷たく響いた声と、絡みつく蛇のような眼差しを持つこの男に……。 彼はこの日。 莫大な富と引き換えに、自分の娘を差し出すことを承諾した。
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