【3】

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その日の晩。 私は勇気を出して彼が帰ってくるのを居間で待っていた。 夜も更け、ガラガラと音を立てて開いた玄関に身体が一瞬硬くなる。 これまでは彼が帰って来る前には、寝室で横になっていたのだけれど、たった一輪の花に背中を押された奇跡とも呼べるその行為。 疲れを滲んだ足音が一歩ずつこちらへ近づいてくるのと同時に、バクバクと早くなっていく私の鼓動。 そうして、静かに引かれた障子の隙間から、一瞬だけ驚いたように眞緒の息を飲む音が聞こえたあと。 初めて彼が、私に声を掛けた。 「…私は先に寝ますので。」 相変わらず無愛想にそれだけ呟いた彼に、 「えぇ、おやすみなさい。」 そう言って満面の笑みを返してしまうほどに、私の心は浮かれていた。
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