4263人が本棚に入れています
本棚に追加
/139ページ
その日の晩。
私は勇気を出して彼が帰ってくるのを居間で待っていた。
夜も更け、ガラガラと音を立てて開いた玄関に身体が一瞬硬くなる。
これまでは彼が帰って来る前には、寝室で横になっていたのだけれど、たった一輪の花に背中を押された奇跡とも呼べるその行為。
疲れを滲んだ足音が一歩ずつこちらへ近づいてくるのと同時に、バクバクと早くなっていく私の鼓動。
そうして、静かに引かれた障子の隙間から、一瞬だけ驚いたように眞緒の息を飲む音が聞こえたあと。
初めて彼が、私に声を掛けた。
「…私は先に寝ますので。」
相変わらず無愛想にそれだけ呟いた彼に、
「えぇ、おやすみなさい。」
そう言って満面の笑みを返してしまうほどに、私の心は浮かれていた。
最初のコメントを投稿しよう!