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春、弥生。 白い息に映える梅の木が、そろそろとその蕾を膨らませてきたその時分。 私はまた、この人生における一つの節目を迎えようとしていた。 今日は4年間通った大学の卒業式。 ……だというのに、感慨深いことなんて何ひとつない。 もともと勉強も嫌いだし、サークルのお友達ごっこもやってられない。 それに友人もいなければ恋人もいないこんなところに、思い耽れるほどの思い出もへったくれもないからだ。 どこか冷めた気持ちで、涙を流す同級生の女性に目を向けて、この季節とは無関係の白い息を吐く。 学生最後なのに。 4月からは社会人なのに。 そんなことも私にはまったく関係ないんだから余計にそう思った。
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