第1章

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    第一章 居合仲間たち  「うわーッ」  小野精一郎は大声をあげて、布団から半身を起こした。  時計を見ると夜中の三時である。全身にびっしょりと寝汗をかいていた。  「またか、これで何度目だろう」  また同じ夢を見た。大きな岩がゴロゴロと転がってきて自分の顔にのしかかってくるのである。その岩の重みで顔面はバキバキといういやな音と共に骨が折れ、血が飛び、ぐしゃぐしゃに崩れる。そしてその顔がつぶれて仰向けに横たわる自分自身を、自分自身が上から眺めているのである。  小野精一郎は三十歳、独身、中学の教員で社会科を担当している。  小野は元来、不安や恐怖心の強い神経質な性格である。そのひ弱な性格をなんとか直したいと思い、毎週土曜日の夕方は居合の稽古に励んでいる。流派は神道一刀流、小野は稽古を始めて四年目で現在三段である。  最近奇妙な悪夢を見るようになって、精神が不安定になってきていると感じているが、これではいけないと思い、今日も居合の稽古に励んでいた。  「えいっ」  おお、今度はうまく斬れた。水で湿した畳表の円筒を右袈裟斬りで一刀両断して、小野は嬉しそうな表情を見せた。  さっきは踏み込みすぎて上手く斬れなかった。  「小野君、間合いが近すぎる」
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