第1章

6/36

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
 天峰山というのは、今小野や佐藤の居る九州のK市の体育館から車で三時間程度内陸側に入ったところにある標高千七百五十メートルの山で、山頂付近には宿泊用の山小屋もある人気のレクレーションスポットである。  小野精一郎は元々山歩きが好きなもので、佐藤輝夫のアナウンスにいち早く反応した。  「はい、僕行きます」  小野の反応に応じるかのようにあと三人がご一緒します、と声を上げた。  「丁度どこか山登りしようと思っていたのでいいタイミングです」  そう言ったのは、太田雅夫四段、三十六歳でK市内の書店勤務の独身。  「再来週は家内が実家に帰るから時間が空いて好都合だ」  太田に続いたのは平松文也四段、四十歳、奥さんと二人暮らしの銀行員である。  「天峰山の山小屋に泊まるんでしょ。一度泊まってみたかったんですよ」  という声は塚本宏二段、二十八歳独身、市役所の職員である。  結局、二週間後の連休を利用して合計五人の居合仲間で天峰山に登ることになった。移動手段はリーダー格の佐藤輝夫の大き目のワゴン車である。待ち合わせ場所は居合の稽古場になっているいつもの体育館前に朝九時集合ということにした。  出発当日、九時少し前までには全員が揃った。リーダー格の佐藤輝夫が、それではみなさん、出発しましょう、と元気よく挨拶して、五人を乗せたワゴン車が出発した。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加