第1章

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 九月の陽射しはもう夏の強さはなく、秋の訪れを感じさせる柔らかさがあった。天峰山の登山口までは高速と一般道を乗り継いでおよそ三時間のドライブで、運転は佐藤輝夫と小野精一郎が交代でやることになった。車は市街地を離れておよそ三十分で高速道路に入った。  「私は天峰山には何度か登ったことがあるけど、登り始めて三時間程度で山頂に着くから、そんなにきつくはないよ」  佐藤輝夫が軽快にハンドルを握りながら言うと、  「そうですね。ただ、六合目と七合目の間が尾根道になっていて割と道幅が細いんで要注意なんだ」  二十八歳の公務員、塚本宏が言った。それからしばらくは、天峰山を含めての自己の山登り体験などをみんなでなごやかに情報交換しあった。  やがて歴史好きで書店勤務の三十六歳太田雅夫が天峰山の歴史に話を振った。  「あの山は昔確か銀の採掘やってたんですよね」  「そう、江戸時代は、生野銀山ほどじゃないが、結構銀が採れていたらしい」  太田に反応するように佐藤が答えた。  「でも、あれですね、昔の鉱夫は大変だったでしょうね。今みたいに機械もなく、何もかも手作業でしょう」  一番若い塚本宏が缶コーヒーを飲みながら言うと、歴史好きの太田雅夫が答えた。  「そうなんだ、ものすごい重労働で、中でも水替人足の仕事は過酷だったらしいよ」  「水替人足って何なんですか」
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