第1章

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俺は秀行の性格をよく知っている。 勿論弟の楽は俺よりも知っている。 移植する側にも危険が及ぶ手術に秀行が弟を巻き込むわけがなかった。 どれだけ言っても同意書にサインをしなかった。 俺達がどれだけ泣こうが、秀行は自分の命を省みず楽の命を最優先に考えた。 俺は無力だ。 生にすがることしか出来ない。 死が迫り来る中、あんな表情を俺は作れない。 味覚も狂い、歩けない程に痩せこけ、毎日死に怯えることしか出来ないだろう。 結論として出るのはやはり無力。 それしか出ない。 何が正解で何が間違いなのかも到底答えは見えないが、俺達が出来ることは音楽を貫くことくらいだ。 それを人一倍に感じているのは楽だろう。 楽は秀行から背中を押され俺達の元へとやって来てくれたのだろう。 秀行、俺はどうすれば正解に近付けるんだ。
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