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そうやって秀行のことを考えていると筆が止まってしまっていた。
看板に一滴一滴ゆっくりと赤い塗料が落ちる。
「巳島くん大丈夫?」
無表情で固まっている俺を呼び起こすように高い声がした。
目をやると心配そうに見つめていたのは福浜 雀だった。
真ん丸とした目で俺を見る。
「あぁ。
大丈夫、ありがとう」
変な邪念が現れる。
こいつも俺を無視してきた人間だ。
仲川がいなくなった瞬間、俺に話しかけてくるようになった。
雀の小さな優しさも汚い偽善としか思えない自分に嫌気がさす。
「大丈夫ならいんだけど。
そういえば巳島くん今年はライブするんだよね。
私も唯っちもすっごく楽しみにしてるから」
福浜は満面の笑みだ。
福浜は同級生からも先輩からも人気があると聞いたことがある。
よく見れば綺麗な顔立ちをしている。
モテているのに彼氏を作らないというのはステータスになるのだろうか。
それとも片思いでもしているのだろうか。
どのみち俺には次元の違う世界の話だろう。
「どうしたの。
もしかして私巳島くんにプレッシャーかけちゃった?
巳島くんごめんね」
両手を合わせて可愛い子ぶる。
駄目だ。
俺はどうもこういうタイプは苦手だ。
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