第1章

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そうやって秀行のことを考えていると筆が止まってしまっていた。 看板に一滴一滴ゆっくりと赤い塗料が落ちる。 「巳島くん大丈夫?」 無表情で固まっている俺を呼び起こすように高い声がした。 目をやると心配そうに見つめていたのは福浜 雀だった。 真ん丸とした目で俺を見る。 「あぁ。 大丈夫、ありがとう」 変な邪念が現れる。 こいつも俺を無視してきた人間だ。 仲川がいなくなった瞬間、俺に話しかけてくるようになった。 雀の小さな優しさも汚い偽善としか思えない自分に嫌気がさす。 「大丈夫ならいんだけど。 そういえば巳島くん今年はライブするんだよね。 私も唯っちもすっごく楽しみにしてるから」 福浜は満面の笑みだ。 福浜は同級生からも先輩からも人気があると聞いたことがある。 よく見れば綺麗な顔立ちをしている。 モテているのに彼氏を作らないというのはステータスになるのだろうか。 それとも片思いでもしているのだろうか。 どのみち俺には次元の違う世界の話だろう。 「どうしたの。 もしかして私巳島くんにプレッシャーかけちゃった? 巳島くんごめんね」 両手を合わせて可愛い子ぶる。 駄目だ。 俺はどうもこういうタイプは苦手だ。
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