第1章――平穏な日常――

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「お疲れさま、お兄ちゃん。」 「あぁ……ホントに疲れたよ。」 紫から労いの言葉をもらいながら家に上がる。すると、鼻を良い匂いがくすぐった。 「うん?もしかして……もう夕飯出来てるのか?」 「うんっ♪お兄ちゃんが作業を終えたらすぐ食べられるようにと思って。」 「まじかぁ!いや~、紫が気の利く妹で良かったな~!」 「もぅ、おだてても何も出ないよ?ふふっ、さっ、食べよっ♪」 紫が気を利かせて夕飯を準備してくれたおかげでさっきまでの疲れもどこへやら。俺と紫はテーブルに向かうと向かい合って夕飯の野菜炒めを頂いたのであった。 ――――夕飯を食べ終えた後、俺にはまだやるべきことが残っていた。 今日来たこのガラ……宝の山の選別作業が。 ハッキリ言ってトラック一台分のこれらを家に貯蔵するなんて不可能である。なので取り敢えず家に置けそうなものだけを選別して、後は近所の博物館やら美術館やらに寄贈しているのである。 両親は俺達がそうしていることを知っているのだろうが、構わずに送りつけてくるので困りものである。正直やめてほしい。ていうかやめてくれ。疲れるから。 「はぁ~……ホント懲りないよなあの人達は。」 「あ、あはは……まぁ、お父さんとお母さんが無事だっていうサインなんだと思えば……いいんじゃないかな?」 「良かねぇよ……生存報告すんなら普通に電話か手紙でいいだろうよ……ったく。」 文句を言いながらも紫に見守られながら選別作業を進めていたその時…… 「ん? なんだこの壺?」 「? どうしたの、お兄ちゃん?」 「いや……なんか光ってたからさ。」 「光って? 装飾品がLEDの明かりに反射したとかじゃなくて?」 「う~ん……でも反射して光るような装飾品無い気がするんだけどなぁ……」 ガ……宝の山の中で一瞬青く光っているように見えた壺があったので持ち上げて見るが……全体的に錆び付いているようなくすんだ色をしており、反射どころか発光するような要素は全く無かった。 「……気のせいかな?」 「……気のせいだったんじゃない?」 「……だな。」 そう結論づけると、俺は再び選別作業に戻った。 ――目を離したその壺が再び青く光ったことに気づくことなく。
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