第1章

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強くもない雨がまだ降っていた。 僕は鞄にノートと筆箱を押込み、棚に教材を戻した。 下駄箱に向い、自分の靴を取り出して履き鞄から折り畳みを傘を取り出した。 玄関をくぐると雨特有の臭いがした。 傘をさし校門を出たところでポケットの中のスマホが鳴った。 珍しいと思い確認したら、数年ほど前から近畿地方に単身赴任中の父からだった。 (遅くなった、誠誕生日おめでとう) ああ、そうか今日は僕の誕生日だったんだ。 と思うが日付が思い出せない。 なら今日で僕は18になったのか、早いもんだ。 スマホをポケットにしまい再び歩き始めた。 もよりの駅に着き、僕のマンションのある駅で降りた。 今日の献立は何にしようか、行きつけの八百屋で足を止める。 「まこちゃんじゃないか、今日は何する?」 八百屋のおばちゃんが僕に気付いて声をかけてきた。 背中の丸まった優しそうな顔のおばさんだ。 僕は店のなかを見渡して、じゃあと口を開いた。 「ジャガイモと人参、玉ねぎを1つ下さい」 今日は梅雨だが肌寒いので肉じゃかにしよう。 「ん、わかったよ、…あ、今日ねどら焼作ったから持っていきなさい」 おばさんが微笑んで1つ1つ袋につめてくれた。 そして一旦店の奥に行ってしまった。 「黒」 僕が呼び掛けると店番をしていた黒猫の耳がピクリと動き、駆け寄ってきた。 僕の足元にすりつき首の鈴の音をならす。 「いいこだ…」 抵抗しないので頭を撫でるともっとと言うように僕のてにすり付けてきた。 思わず笑みがこぼれた。 「今日はどうやら僕の誕生日らしい」 僕はしゃがみ黒猫に語りかけるように呟いた。 「みゃー」 言葉がわかって祝福してくれたみたいで思わずまた笑ってしまった。 「…ありがとう」 今日も僕の特別でもない普通の1日になるはずだったんだ。 幸いか災いか…まさかこんな場所でまた君に会うなんて思ってもいなかったよ。
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