第1章

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「チッ…」 放課後には雨が降った。 俺はやることもなくただ靴を履き、傘もささず歩き出した。 忘れたんだよ。 小粒だが少なくもない雨に俺の茶髪が水分を吸って色が濁っていく。 「黒峰じゃん、お前もカラオケ行く?」 多分同じクラスのやつだろう、俺に声かけてきた。 「めんど」 「だろうなあって思ったよ、まあ気が向いたら来いよ」 俺に声をかけてきたのは、こいつか うそっぽい笑顔だなこら クラスの中心的なポジションのエセ爽やか人間だった。 こいつは男女ともに人気がある、勉強できるし運動できるしおまけに無駄に王子さまみたいな顔してやがる。 全部嘘くせえし特に覚える必要もない人間としか思ってないからつるまない。 俺の態度に陰口たたくやつらもいるがそいつらも無視して校門を出た。 歩道を歩いてしばらくしてから、ふとケーキが並ぶ洋菓子屋のバースデーケーキに目がいった。 ブルーベリーと莓をちりばめたチョコレートケーキだった。 甘ったるい匂いがした。 別に甘いもの好きな訳じゃねえが、何となく気が付いたら店にはいってそのガラスケースの前にたっていた。 「どなたか誕生日なのですか?」 にこにこ笑って帽子をかぶった店員が俺に声をかける。 「いえ、…まあ、そんなとこです」 歯切れの悪い答えになったが、確かに今日は誕生日だった、俺のじゃねえぞ。 無意識でも勝手に動く自分に腹が立った。 「……」 まあ、あいつらにでも食わせっか…。 年の離れた弟妹を思いだし、そのケーキを買ってしまった。 「あの、良かったら傘をどうぞ」 会計を済ませて出ていこうとしたら、ビニール傘を手渡された。 「いや返すの面倒なんで必要ないっす」 「そのケーキが雨に濡れちゃうかなって、返さなくていいんで」 受け取ろうとしない俺が受けとるように考えたのかはにかんだ。 俺はこれ以上渋る理由もないので素直に受け取った。 「ありがとうございました、またのご来店をお待ちしております」 そうして店を出たところで、朝家を出る前にばばあに言われたことを思い出した。 (帰りにスーパーに寄ってピーマンと挽き肉買ってきて) 「うわあ…めんど」
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