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月の見えない深夜2時。安アパートの2階で洗濯物が風に揺れている。
「寒くないですか?」
影の無い誰かが訊ねる。
「なぁに、もう少しで家主が帰ってくるさ。」
明るく、からっとした声がした。
・・・・・
三日月の昇る宵の口。一軒家の換気扇からカレーの臭いがする。
「いいなぁ。今日はカレーですか。」
影の無い誰かが訊ねる
「……」
換気扇は答えない。自分が貰えない事にすねているのか、回るのに忙しいのか。でも、少し寂しくなる。
・・・・・
満月が降る夜8時。辺りはまるで昼間のような明るさ。乾いた風が夜をゆっくりと冷やす。
「いい天気ですね。」
振り返ると街路樹がおじぎしていた。
「ほんとですね」
話しかけられるなんて久しぶりで少し嬉しくなる。
(ほんとは明るいの苦手なんだけどなぁ。)
と考えていると街路樹たちが歌い出した。今夜はいい夜になりそうだ。
・・・・・
新月の真夜中。影の無い誰かが満天の星空を見上げていた。辺りは寝静まり、まるで時が止まったようだった。
「ご一緒してもいいですか?」
振り向くと別の誰かが立っていた。
「もちろん!」
二人の間に満面の笑みがこぼれる。
「いい夜ですね。」
二人分の声が満天の星空に響いた。
今夜もいい夜になりそうだ。
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