第1章

2/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
月の見えない深夜2時。安アパートの2階で洗濯物が風に揺れている。 「寒くないですか?」 影の無い誰かが訊ねる。 「なぁに、もう少しで家主が帰ってくるさ。」 明るく、からっとした声がした。                ・・・・・ 三日月の昇る宵の口。一軒家の換気扇からカレーの臭いがする。 「いいなぁ。今日はカレーですか。」 影の無い誰かが訊ねる 「……」 換気扇は答えない。自分が貰えない事にすねているのか、回るのに忙しいのか。でも、少し寂しくなる。                ・・・・・ 満月が降る夜8時。辺りはまるで昼間のような明るさ。乾いた風が夜をゆっくりと冷やす。 「いい天気ですね。」 振り返ると街路樹がおじぎしていた。 「ほんとですね」 話しかけられるなんて久しぶりで少し嬉しくなる。 (ほんとは明るいの苦手なんだけどなぁ。) と考えていると街路樹たちが歌い出した。今夜はいい夜になりそうだ。                ・・・・・ 新月の真夜中。影の無い誰かが満天の星空を見上げていた。辺りは寝静まり、まるで時が止まったようだった。 「ご一緒してもいいですか?」 振り向くと別の誰かが立っていた。 「もちろん!」 二人の間に満面の笑みがこぼれる。 「いい夜ですね。」 二人分の声が満天の星空に響いた。 今夜もいい夜になりそうだ。          
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!