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「あれは娼館ですか」
ふと、塀の向こうにある大きな建物に気付いて下男に問うた。
塀は石造りで、そのすぐ向こうに娼家らしき建物の二階部分だけが塀の上から見えているが、そこから首を左に回すと、ずっと向こうに立派な大きい建物がある。
「へえ。あそこは雪美館の御座敷がある場所で……。
ああ、雪美館ってえのは都季様が居なさるところなんですけどね。あそこは宴とか客同志の寄り合いに使われている場所ですよ。ちなみに都季様の部屋はあそこです」
下男が娼家の二階を指差した。
たくさん並んだ窓の真ん中よりやや右側の辺りを指しているが、どの窓が都季の部屋なのか判じかねる。
「午過ぎになると、たまにあそこから外を眺めてらっしゃるんですよ」
下男の声は小気味良かった。
あたかも誰も存ぜぬ秘密事を己一人だけが存じているかのような優越に近い響きがあった。
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