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「都季様。今時分にお部屋にいらっしゃるなんてどうされたんですか。夕餉はもう済まされたんで?」
都季は答えようか答えまいかと考えあぐねているていで窓際に坐すと、
「夕餉をこぼしてしまったの」
と、自嘲気味に答えた。
「じゃあ食事がないんですかい?」
驚いて問う下男に、都季は恥ずかしそうに頷いている。
「ならば、こちらへいらっしゃいませんか。大したものはお出しできませんが、すぐに用意できますよ」
令雲は己の前にある膳を見つめた。
膳の上にあるのは、かるく盛った白飯と、具の少ない汁と、川魚の煮付けのみである。
上級女だという都季ならば口も肥えていよう。いくら空腹とて、かような食事を欲しがるとは思えない。
しかし、都季は膝を乗り出した。
「かまわないの?」
「かまいませんよ。ねえ先生。よいでしょう」
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