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「都季様のことですが」
ふと、蓮吾が口を開いた。
蓮吾は綾の弱みをよく存じている。
都季の名を聞くと、綾の心にひそんでいる嫌悪の感情が、自ずと面(おもて)にあらわれるのだ。
その心を蓮吾は利用しているのでは、と一時は疑念を抱いたが、蓮吾は紛れもなく綾の心に共感していた。
都季は、綾と蓮吾をつなぐ唯一の共通の敵なのである。
「都季様は作法の指南を受けるべく、塾へ参ろうとしておりました」
蓮吾はさしたることもない口調で、紅と紅筆を鏡台に置いた。
しかし、本題はこれからであろう。
「して」
「上級女が塾通いとは、都季様ばかりでなく他の上級女方の質までも貶めますと諌めましたので塾へ参るのは諦めましたが、このまま大人しく引き下がるとは思えません」
綾は納得して頷いた。
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