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襖の向こうで蓮吾の声がした。
入室を許すと、廊下に坐した蓮吾が両の指先で静かに襖を開いた。
「失礼いたします」
蓮吾の傍らに一汁三菜が並べられた脚付きの膳が置いてある。
「それは?」
都季はまさかと思案しつつ問うた。
蓮吾は手を付き低頭している。
「都季様の夕餉をお運びいたしました」
「何故? 食事が部屋に運ばれるのは病で伏した折りでしょう!」
激昂が、つい口をついた。
部屋でひとり食せよとは、綾は都季の考えを既に見抜いていたのであろう。意地でも作法を覚えさせぬつもりなのだ。
「上級女ともあろう方の無作法を皆様に見せられませぬ故、都季様はこちらでお召し上がりください」
「皆に見せられないと? ではこれまでは? 今さら隠しても無意味でしょう。私は食房へ行きます」
食膳を運び入れようとした蓮吾を払い、廊下に出ようとした。
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